不審者を発見して身構える猫
そんな中で予想もしないような恐ろしい出来事がこの家族に起きたのです。その日はフランの会議が長引き、ジャヤとトムは朝から夜まで二人で一緒に過ごしていました。会議を終えたフランがトムに夕食を食べさせると、トムはすぐに床で眠ってしまいました。朝からジャヤはトムに追いかけまわされ、ジャヤもかなり疲れていました。母親はトムをソファーに移動させ、ジャヤもそれについていき、ソファーで横になりました。そしてずっと窓から裏庭を眺めていました。
その直後、ジャヤは窓から光る何かが見え身構えました。人の入るはずのない自宅の庭で誰かが歩いている姿が見えたのです。ジャヤは立ち上がり、鳴きながら窓際まで歩いていきましたが、外には何もいなかったようで、トムの横に戻ってジャヤもすやすや居眠りをはじめました。
そして猫はこつぜんと
その後はいつもと変わらない普通の夜でした。いつものようにフランは赤ちゃんと猫の様子を確認するため、約30分ごとに居間にやってきます。彼女はそのたびにトムとジャヤのかわいらしい姿に笑顔になりました。
ジャヤが光るようなものを見たときから数時間が経っていました。ジャヤは突然目が覚めました。自分の体が前後に揺れています。そして目を開けるとなぜか自分が狭いケージの中に閉じ込められていたのです。どうやらケージの中に入れられてどこかへ連れていかれているようです。ジャヤはそのケージから逃げ出そうとしましたが、ぴしゃりと閉められたケージの隙間からすり抜けることは難しそうです。ジャヤは昔これに似たようなケージに入れられて獣医のところに連れていかれたことが頭に浮かびました。
必死に相棒を探す赤ちゃん
ジャヤはケージに入れられたまま、オットーとフランの家を出て、家の前の通りにいるようです。そしてそのまま近くに止められていた車のトランクに入れられてしまったようでした。トランクがしめられたとたんジャヤのまわりは一転して真っ暗になりました。一体ジャヤの身には何が起きているのでしょうか。
ジャヤが連れていかれてから数時間後にトムが目を覚ましました。どうやらお腹が空いて機嫌を悪くして泣いています。それを聞いたフランはトムが寝ているリビングルームにやってきました。そしてそこにいるはずの猫、ジャヤがいなくなっていることに気が付きました。トムを抱き上げながら、彼女は周囲を見回しました。ジャヤはどこに行ったのかしら?ジャヤがトムのそばにいないなんてことはトムが生まれてからほとんど初めてといっていいくらい珍しいことでした。
捜索するも見つからない猫
とりあえずトムにミルクを与え、少し一緒に遊び、フランは一段落がつきました。小一時間経つのに依然としてジャヤはいません。最初は家のどこかにいるのだろうと軽く考えていたフランはとても心配になりました。
トムも相棒のジャヤがいないので、はいはいをして家じゅうを探し回っているようです。小さい体で一生懸命窓によじ登って家の外も探しています。トムはこんなにも長い間ジャヤと離れ離れになったことはこれまでに一度もないのです。何時間が過ぎてもジャヤは出てくる気配もありません。そもそも家のドアや窓には鍵がかかっていて猫が逃げ出すことなどできないはずです。オットーもフランも手分けをして、ソファーやベッドの下まで家の隅から隅まで二人で探しましたが、ジャヤは見つかりませんでした。
フランが父親から贈られた高価な猫
美術商をしていたフランの父親が、世界一高価な猫と言われるアシェラ種の猫を欲しがっていたフランのためにバースデープレゼントとしてくれたのがジャヤでした。ジャヤはとても血統のいい猫だったのもオットーとフランにとっては気がかりでした。そんな高価な猫が野良猫として街を歩いていたらきっと誰でも拾うはずです。最近はトムにかかりきりだったとはいえ、ジャヤだって大切な家族の一員です。彼らにとってジャヤがいかに高価な猫であるかどうかは関係なく、大切な家族が一人いなくなってしまっていることにフランとオットーはパニックに陥りました。
トムが握りしめていたもの・・・
夫婦がジャヤを庭で探していたところ、トムもはいはいをしながら外へ出てきました。そして片手に何かを握りしめていました。「何を持ってるの?」二人はトムの元に駆け寄りました。トムは握りしめていた小さな紙きれを芝の上に置きました。それをオットーが拾い上げると、紙には彼らが住む家の住所が書かれていました。オットーとフランはすぐに、誰かがこの住所を目当てにしてやってきて家の中に忍び込みジャヤを盗んだのではないかと考えました。もしそのシナリオが事実なら、猫の次はトムが誘拐されてしまうかもしれません。誰かがこの家を狙っているのです。それを考えただけで彼らはとても恐ろしくなりました。
猫の行方
しかしオットーはトムがもう一枚の紙を持っていることに気が付きました。トムはその紙を父親に渡しました。そしてフランと一緒にその紙を目にして二人は同時に大きな声を上げました。「そんなことありえない!」。もうひとつは市内でも有名なペットショップの名前が書かれた名刺でした。この時点ですべての関係がつながりました。誰かがこの家にやってきて、ジャヤを盗み、それをそのままペットショップへ連れ込んだ・・・誰かがペットを窃盗し、窃盗した動物たちをペットショップで売っていたのです!
赤ちゃん探偵「トム」がすべてを明らかに
オットーとフランはすぐに警察を呼びました。警察がそのお店を捜索したところ、バックヤードには数十匹の様々な品種の猫が衛生環境の悪い中で閉じ込められていることがわかりました。ペットショップは窃盗された高価な猫をそのまま売っていたのです。オットーとフランが予想していたようにその中にジャヤもいました。そのペットショップのオーナーはすぐに逮捕されました。
ジャヤはフランとオットーに連れられてそのペットショップを後にしました。家に着くとトムが最初に抱きかかえました。この赤ちゃん探偵が小さな紙きれを見逃さなかったことでジャヤは無事に家族の元に帰ることができたのです。「赤ちゃん探偵」トムのおかげで世界の誰もが想像もしなかった事実が明らかになったのです。本当に奇跡のようなことで、両親はトムのことを誇りに感じました。こうして家族はまた4人になり、彼らに穏やかな日々が戻ってきたのです。