空に浮かぶ謎の赤いボールの正体とは!?

    redball
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    空を見上げた時、送電線に取り付けられたボール状の物体が目に入ったことはありませんか?赤くて、クリスマスツリーにかける赤いオーナメントみたいな形をしたあれです。大体は規則正しく等間隔にたくさんついています。色は赤が基本ですが、白色や黄色もあります。電線に飾りがついているはずがありませんので、何か必ずや意味があるはずです。一体この謎のボールが何のためにあるのか探ってみると、予想以上に重要な私たちの生活を守る設備であることがわかったのです。このボールがいつごろから世の中で使われるようになったのかは実はあまりはっきりしていません。1950年代にアメリカのフロリダ州とアーカンソー州で使われるようになったという説、70年代にアーカンソー州だけで見られるようになった説など・・・どちらにしろあまりよくわかっていないのでここでは議論しませんが、今やアメリカのみならず多くの国で使われています。

    redball and moon
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    遠くから見ると小さく見えるこのボール、実際のサイズがどのくらいかご存知ですか?何百メートルも離れた地上からでもはっきり見えるくらいですから、小さいはずがありません。サイズにはバラエティがありますが、大きいものだと直径1メートルほど。地上から近い電線に取りつけられているボールだと、大きいボールの約半分。直径50センチほどです。小さいボールであればあるほど、それぞれのボール間の距離は狭いのが一般的で、小さなボールで約10メートルごとに、大きいボールで約90メートルごとに取り付けられています。当たり前ですが、それらのボールは人が登って取り付けることは不可能なのでヘリコプターで停空飛行をしながら取り付け箇所に設置されます。

    redball above the river設置にここまではっきりとしたルールがあるくらいですから、明らかに大きな意図があることは間違いありません。ボールについた明るい色味に、決まったサイズ、1センチもずれがない間隔・・・一体何のためにあるものなのでしょうか。送電線の敷設に従事していたり、エンジニアリングに興味のある人でなければこれを想像するのは少し難しいかもしれません。なので、少しヒントを。

    power lines
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    送電線は電気を各地に送るためのものです。このボールはその電気を送る電線に設置されているものです。各家庭にまで電気が通じて電灯を使えるようになったのは比較的最近のことで、1882年にドイツの技術者オスカー・ボン・ミラーとマルセル・デプレが、当時通信網として使われていたケーブルを使って、電気を送ることに成功しました。それにより60キロ以上離れたところにまで電気を運べるようになったのです。たった60キロ?と思うかもしれませんが、当時は大きな進歩で、電気事業の先駆けとなりました。電線が発明される以前、発電所の付近の工場や家、そして発電所に隣り合う町しか電力を使うことができませんでした。この送電線の登場により、発電所のない少し離れたところでも電気を使えるようになったのです。各国が工業的に発展していくことで、電力会社は徐々に発電所を都市から離れた山あいや、田舎に移動させるようになります。各地に電力を送るにはさらに長い送電線が使われるようになりました。

    power lines carry electricity
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    現代では私たちが使う電気はとても離れたところから送られています。そんな長い距離まで電気を運ぶことができる送電線ですが、その電線はいつもむき出しであることを不思議に思った方もいるかもしれません。そう、空を通る電線に近づける人は電線の管理者以外にいないからです。高すぎて私たちには届かないので、すべての電線にカバーをつけるだけ労力とお金の無駄です。参考までに地下に埋められている電線には、地上で生活する私たちを守るためカバーが取り付けられています。そんな空を走る電線ですが時に感電事故が起こります。多くの事故が地上で行われている工事に携わる人やトラクターなどの機材が電線に触れることで起こっています。人やトラクターに電気が触れ、その電磁が地上に流れ込むことにより、人や物が感電してしまうのです。

    birds on wire
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    これで電線に止まる鳥が感電しない理由がわかりますね。電線に触れていても、その触れている物体が地上に接触していなければ感電はしないのです。鳥は地上にいるわけではなく、宙にある電線に止まっているだけ。そのため鳥たち電線に止まっていても感電することはありません。しかし例外があります。鳥が2本の異なる電線にそれぞれの足をかけたり、電柱と電線に片足ずつ足をかけた場合には感電してしまいます。そうならないように、電力会社はそれぞれの電線を十分に距離をもって敷設し、鳥たちが一度に2本の電線に当たらないように配慮しています。少なくともあのボールは鳥のためにつけられたものではありません。渓谷や湖など山間のあの不思議なボールの正体は一体何なのでしょうか。

    Rockefeller
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    何十年も前の話、ロックフェラー家の一人が空港から離陸する際、飛行機のすぐそばにある電線に危うく接触しかけるという事故がありました。それと同じように、1950年代、ヘリコプターに乗ったアーカンソー州の知事が、窓から至近距離に見える電線に恐怖を感じたそうです。それにより彼らは離発着をするパイロットたちに電線の存在がはっきりわかるようにするため、特に空港そばにある電線はより視覚的であるべきだと考えたそうです。

    buoys of this ball
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    そのころから各地で電線にこのボールの浮標が取り付けられるようになったのです。アーカンソー州、フロリダ州、また山がちなエリアの多いコロラド州などで敷設が進みました。しかし残念なことにいまだにヘリコプターなどが電線に触れる事故は後を絶たず、100%敷設が完了しているとはいえない状況です。アメリカのFAA(アメリカ連邦航空局)は「浮標のない電線の場合、パイロットが機体と電線の間の正しい距離を目視で測ることは不可能」として現在も各州で設置が進められています。そう、このボールは飛行機やヘリコプターのパイロットたちに機体の周辺に電線があることを警告するための指標だったのです。空港近くはもちろん、先の見通しのつきにくい谷間の街、山がちなエリアでこのボールをよく見かけるのはそのためです。

    powerlines and airplane
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    飛行機の発着陸の際など、場所によってはパイロットには頭上にあるボールは目に入りにくいこともあります。そのためボールのサイズには大小の差があり、鮮やかな色が付けられているのです。湖や山間では直径1メートルのボールを、地上から15メートル以内に電線のある空港や都市部には小さいサイズのボールが設置されているのが一般的です。赤色のボールが多いのは、空の色と全く異なる色味だから。赤よりオレンジ色の方が視覚的に判別しやすいとの研究結果が出ており、最近ではオレンジ色のものが増えてきています。白や黄色、何色のボールが使われるかは、その背景の色となる地形などによって決定します。

    white, yellow and orange balls
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    もし電線が短く、4つの浮標しか取り付けられない場合、すべてオレンジ色のボールが付けられるそうです。そしてそれよりたくさんのボールが付けられる長い電線の場合、複数の色が使われることが多いようです。そしてこれらのボールは飛行機だけでなく、川や湖を運行するボートにとっても、電線に当たらないようにするための目印となっています。飛行機や船の安全な運行に一役買っているこのボール。私たちの命を守るだけではなく、動物たちにも配慮がされている電線を守り、私たちの暮らしになくてはならない電気を常に安定して送るためのものだったのです。

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